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2010年9月13日 (月)

ゆるせない腹筋

振り返ると、娘はたいへん育てやすい子どもだった。
どう育てやすいかというと、好奇心が旺盛なのだ。

何か見つけると猪突猛進に走って行くから、危なくって目が放せなかったけど、
好奇心は素直な心からうまれるもので、情報をスポンジのように吸収する。
閉じてない。
大人にとって、接しやすい子どもだったのだ。

「あのさー」と話しかければ「なになに?」と寄って来る。
こちらが話すことを「へえ、ほんとう? そうなんだ」と目を爛々とさせて聞く。
それが彼女の血となり肉となってゆくのが見てとれる。
だからわたしは娘といるのがとても楽しかった。

 
娘が2歳の時、夫が入院した。
それから何年か、入退院をくり返す生活が始まった。
わたしは手術の当日だけ娘を実家に預けたが、
基本的にはそばに置き、娘の手を引いて病院に通った。

幼い子どもにはその子特有の行動様式がある。
なにかに反応すると走り出すとか、ぱっと手でつかむとか、熱を出すとか。
その子の特徴をつかんで対応しないと、思わぬ怪我や病気につながる。
だからひとに預けるのが不安だったのだ。

駅のホームで電車待ちをするとき、あるいは電車の中で、
わたしはよく娘としりとりをした。
絵本やおもちゃを携帯しなくても、ふたりで延々と遊び、時間をつぶせる。
娘は根気よく、楽しそうに言葉を探した。

夫は健康を取り戻して社会復帰すると、家を出て行った。
離婚して、娘とわたしのふたり暮らしが始まった。
わたしは仕事を探し、働き始めた。
娘は小学4年生になっていた。
学童保育からはずれる年齢である。

わたしは子育てにたったひとつ、こだわりがあった。
それは「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」は
子どもにとりなくてはならないという考えだ。
貧富の差はあっていい。でもそのふたつの言葉は、子ども時代に必ず
どの子どもにも与えられなければならない。
そうわたしは思い込んでいる。

子育て本に書いてあったわけじゃない。
これはただのわたしの「カン」であり「思い込み」だ。
もっと大切なことって、ほかにあるのかもしれない。

人によって、ひとつくらい固執する流儀があって、
それがわたしの子育ての流儀だったのだ。

わたしは実家の近くにアパートを借りた。
朝の「いってらっしゃい」はわたしが言った。
学校が終わると娘を実家へ帰らせるように手続きを踏んだ。
登校と下校のルートが変わるので、それを学校に正式に申告するのだ。

「おかえりなさい」をわたしの母に言ってもらうことにした。
そして娘は宿題をやったり、遊びながら実家で過ごす。
わたしは仕事を終えると実家に娘を迎えに行き、
星をながめながらふたり、アパートへ帰った。

夜、隣で歩く娘の背中でランドセルがカタカタ鳴った。
「こういうことで、いいのだろうか」と不安をかかえながら歩いた。
子育てって、正解もゴールもない。長い長い旅だ。

実家の両親が健在で、わたしの申し出を受け入れてくれたこと。
そして娘が人見知りせず、おじいちゃんおばあちゃんと過ごしてくれたこと。
わたしの離婚後の生活は、こうして周囲に支えられていた。
めぐまれていたと思う。

娘の好奇心はここでも活躍した。
毎日、おじいちゃんとパズルをしたり、折り紙を折って
せっせと遊んでいたようだ。

「なにかやろうと言うと、すぐに目を輝かせて走って来るから助かるよ」
母がわたしにこっそり言った。
「学校のともだちも連れてきたよ。元気いっぱいだよ」
そんな母の報告が心の支えだった。

当時を振り返り、娘は言う。

「ひとつ、おじいちゃんを許せないことがあるんだ」

ある日、娘はカニの絵を描いた。カニのキャラクターだ。
その絵を見て父が、

「カニはそうじゃない。こうだ」と言って、腹筋を描き込んだという。

腹筋?

「せっかく描いた絵にさ、断りもなくぐいぐい描き込んじゃうんだよ!
 ショックで、すんごい頭にきた」と娘は今も怒っている。

以下の絵は再現です。上が娘が描いた絵(の再現)。下は父が描き込んだ腹筋(の再現)。
 
Kani

プはプリングルスのプ

ささいなことにも好奇心をもって、猪突猛進。
孫の絵にムキになる父と、自分の絵にこだわる孫は
やはりどこか似ているなぁとわたしは思う。
 

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コメント

蟹の腹筋〜大正解!オスは鋭角な三角でメスは三角じゃなく丸みがある〜三角形?意味分かるかな?おじぃさんの書いた腹筋はメス風ですね〜でもね〜淳子さんは,食べたこと無いと思われますが〜たらばがにとか大型の蟹の,そこの部分は,ふんどしと言って高価な食べ物なんだよ!知らないでしょう!娘さんに教えてあげてください!だから,おじぃちゃんが蟹の絵の事では正解なんですよ!北海道の海の近くに住む人々は,ダレも驚かないよ!蟹のミソも美味しいが〜ふんどしは〜絶品だよ!足より美味しいんだよ!

子どもの描いた絵に断りもなく描き込み…そりゃやっちゃイカンでしょう。
「蟹の身体はこうなっているんだよ」っていう「知識」を教えてあげたいのなら、
余白にでも別に描いてあげれば良かったのにね。
そもそも「絵」に「正解」なんてないんだし。
娘さんのお怒り、ごもっとも、と、私は思います。

しかし娘さん、「プ」って…。
受け入れてるんですね(笑)。

michiさん
北海道からのご意見には力がありますね。父も喜ぶと思います。
ふんどしっていうんですね。ふんどし、おいしいんですか。
わたしは蟹の足すらあんまり食べたことがないというか…
記憶に無いんです…ひょっとして、一度も食べたことなかったりして。
味はわかるんですよ。
かにかま、っていう、かに風味のかまぼこみたいなものや、
かにの缶詰をむかし食べた記憶があります。
かにって、かにの缶詰と同じ味ですよね?


Kaeさま
娘、そのときのショックのせいかどうかわかりませんが、
蟹、食べられないんです。匂いがだめみたいで。
匂いってありましたっけね。わたしも遠い記憶になってしまった…。
父はやらせるよりやっちゃうタイプで、プラモデルも結局自分で作っちゃうんですよ。
夢中になると子どもと同じ目線になっちゃうみたいです。
娘は「プ」似を受け入れているようです。素直です…。

お邪魔します。

用足しに出かけていたのですが、ラジオ(東北放送)を聴いていたら、
「長男(第一子)を育てる事について、親はずっと初心者なんですよね」
(こんな感じだったはず、忠実でなくすいません)
・・・と、生島淳さん(生島ヒロシさんの弟さん)が、話されていました。
あわせて、2番目・3番目の子供は上の子を見て育つので、総じて要領が
いいという事も。私も二人子供がいますが、上の子を育てるのは大変だった
事を思い出しました。そして、わたし自身も長男なので、そういう事だったの
かと妙に納得してしまいました。

こういう事だけで人の性格などが決まるわけではないでしょが、人格を形成
するプロセスのひとつの過程ではあるような気がしました。

たぶん、私もおじいちゃんと一緒! 方法を間違えると、余計なお世話ですね。

まあくん
生島ヒロシさんに弟が!知らなかったです。

そうですね。みな最初の子ができて初めて「親」になるのですから
わからないことだらけで、手探りですよね。
わたしはひとりの子しか育ててないので、初心者のまま一生を終えます…
今もときどき「あれでよかったのかな」とか、あれこれ考えます。
わたし自身は2番目なので、親がよゆーで、ほったらかしで。
期待もされず、目も届かず、らくちんでした。

まあくんも腹筋描き込むタイプですね!
それもご愛嬌です!

ぶんぶんブログ、やっと携帯から,探せました。蟹の,味分からないなんて、不幸せだよ。近く送るから、娘さんにも、食べさせてやれば、イメージ変わるかも⁇

michiさん
わたしはいまだに携帯で読めません…
携帯はいまだに未知の機能があり、使いこなせてないです。

蟹の味は知ってますよ。缶詰の味ですよね。
娘はあの缶詰の汁の匂いがだめのようです。

ほんものなんてもったいない〜〜〜〜
ひょっとして社長?
そんな散財、させられません〜〜〜〜〜

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