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2010年10月24日 (日)

茶封筒

同じ市内に実家があります。
猫のひたいほどの庭に、ケシゴム大のボロ家が建っていて、
鳩とごきぶりに人気の物件です。
両親が住んでいます。

月に一回、両親と近所のファミリーレストランで会い、
一緒にお昼ご飯を食べます。
母のおごりです。
この習慣はいつからだったかしら。振り返ると、そう、
離婚して実家近くに住み始めてから続いています。

今思えば、当初母はわたしや娘の栄養状態を
それとなくチェックしていたのでしょう。
ひょっとすると、今も動機は同じところにあるのかもしれません。

会うと、母は大好きな巨人軍の勝率や、ワイドショーで知った政治の動向や、
向井理がすてきなどと話します。
でも「向井理」は発音できません。「あのゲゲゲのひと」と言います。

   
先日は母とふたりで食事しました。
注文して待つ間に、母は使い古した手提げから茶色い封筒を出し、
「ドラマや映画の仕事がんばってるから、ご褒美」と言って
わたしに差し出しました。

お金だ!と思いました。
有難い。と思いました。

ありがとうと言って、受け取った瞬間、急にぐっと、
こみ上げてくるものがありました。
心底有難いと思っている自分がいて、心底助かったと思っている自分がいて、
そしたらこみ上げてくるものがありました。

絶対、こぼしてはいけない。
ふんばってこらえて、水分はせき止めました。
せき止めるため少しの時間、無言になりました。
目玉を上へ向けると、効き目があるような気がします。
あっちを見て、こっちを見ているうちに、大丈夫そうになって、
「向井くんこんどは映画だね」と話しかけたら
母もせき止め中だったのでしょう、あっちを見たり、こっちを見たりしていました。

母が気付かないふりをしてくれたので、
わたしも気付かないふりをしました。

母もわたしも結構おしゃべりですが、
母もわたしも肝心なことは言いません。
肝心じゃないことばかりしゃべり倒すと言う、
不思議な緊張感を持ったつきあいです。
言わないから、さっする。それは母のほうが得意です。

しばらくして母が「向井って?」と言うので
「ゲゲゲのひと」と言ったら、
母はうれしそうに「そうよ今度は映画で主役なのよ」と言いました。
名前は覚えられないけど、そうとう気に入っているようです。

そういえば、某映画会社の社内の壁に新聞記事が貼ってあり、
「ゲゲゲの夫、大人気」と見出しがありましたが
向井さんは「ゲゲゲ」であって、「ゲゲゲの夫」という表記はどうなんでしょう?
まあそれも、肝心なことではありません。

食後、母と別れてひとり帰る道で、知らない老婦人から道を聞かれました。
あしもとがあぶない感じの人でした。
そのひとの目的地まで、一緒に歩いて行きました。
いつものわたしはそんなに親切ではありません。
なんとなく、丁寧に生きなくてはいけないような気持ちになっていました。

その後、わたしは家に帰って、母の封筒を手に取りました。
しわしわの袋にボールペンで「淳子さんに」と表書きがありました。
中にはしわしわの福沢諭吉が3人いました。

せき止めていたものが、決壊しました。
手の甲で、子どものようにぐいぐい、目をぬぐいました。
うれしくて泣くのか、なさけなくて泣くのか、よくわかりません。

ふと、娘を思いました。
もう何年もこづかいなどあげていません。

自分はいつまでこうしてコドモをやっているんだろう?

わたしは携帯電話を持っています。パソコンも使います。車もあります。
両親はどれも持っていません。
父は30年使ったワープロが壊れ、今はわたしのお古を使っています。
それなのにわたしは親から茶封筒を差し出され、断らずにもらいました。

わたしは考えが甘いだめ人間なのでしょう。
パートにも行かず、書いてばかりいます。
書くことしか考えられません。
方向、変えられません。
なさけないけど、書く方向で、精一杯がんばります。
今までもがんばってたつもりだけど、足らないように思えます。
がんばって、がんばって、がんばって、
少しでも光が見えたら、真っ先に母に伝えたい。

ドラマ『北の国から』で、
中学を卒業した純くん(吉岡秀隆)が東京行きのトラックに乗るとき、
運転手(古尾谷雅人)が純くんに茶封筒を渡します。
中には福沢諭吉が二人。しわの無いピン札で、泥が付いています。

「お前のおやじさんがくれたけど、もらえない」
運転手は純くんに言い、純くんはピン札に付いた泥を見て泣きます。
泥だらけで働くおやじさんの指に付いていた泥です。
名シーンです。

純くんはこのお札を使えず、ずっとお守りにしていました。
わたしは明日にも米や野菜に変えてしまうでしょう。

おなかいっぱい食べて、珈琲飲んで、書きます。
ごめんね、おかあさん。


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ぶんぶん的日常」カテゴリの記事

コメント

身につまされます…。
いつまでもコドモをやっている自分、バイトもしない自分、まったく同じです。
でも、書いてばっかりいるわけでもないので、JUNKOさんより全然頑張ってません。

それなりに過酷な思いをしてきましたが、それによるダメージを頑張れないことの言い訳にはできませんからね。
もっと頑張って、なんとか、ものになりたいです。
JUNKOさんに負けないように頑張りたいです。

蔦谷Kさま
コドモどうしだから気が合うのかもしれませんね。
と勝手に気が合ってることにするコドモなJUNKO。

いきなりオトナになれないけれど、コドモなりにがんばりましょうか。
蔦谷さんはすでにがんばって一歩一歩進んでいますが、
わたしは一歩進んで二歩下がり、次に三歩進んで…と、
いつのまにか少しは前にころがってる…みたいなところを狙います。

こんにちは♪
親は子の幸せを願う生き物です。いくつになっても、
親は親だし子は子ですよね。お母さんと会う時に、
本当の笑顔になる事が出来れば、それだけでいい
んじゃないかな。(泣き笑いでもいいよね)

あと、フィリップ・シーモア・ホフマン、私も好きです。
最近の「パイレーツ・ロック」をレンタルして観ました。
ちょいと長過ぎて、ストーリーがどうだったかよく覚え
ていませんが、フィリップ・シーモア・ホフマンのDJで、
60年代後半のロックを聴けただけでよしとします。

一歩進んで、二歩下がろうが三歩下がろうが、自分の
人生ですから、気負わずに生き(行き)ましょう!
私は、常に後ずさってばかりですよ~っ。

まあくん
あたたかいコメントいつもありがとうございます。
母の前では笑顔でいたいです。
それに、そうですね、気負わずに、生きたいです。
後ずさるばかりも味な手ですね。
後ずさりで地球を半周したら、超、前に進んでます。

「パイレーツ・ロック」未見なのですが、そうですか、ホフマンDJなんですね!
そうそう、長すぎると、ストーリーわからなくなること、ありますよね〜。

ホフマンは「カポーティ」で印象深かったのですが、
そういえば「カポーティ」もどんなストーリーだったかすっかり忘れた…
個性が強く、ストーリーを忘れさせる男!なのかもしれません。

まあくんのブログ、尻尾の円がみごとです。

junkoさん〜離婚後から〜ずぅ〜と,子供の栄養管理ですか?母親はいつまで起っても,母親は,母親のままで〜永遠に母親なんだろうか?父親の感性とは違う生き物なのかな?すごいの感性だね〜

うちの母が特別なんでしょうかね?
わたしの娘、つまり孫に会っても
「じゅんこ、ご飯食べてるかね?」と聞くそうです。
いろいろ心配をかける子(わたし)だったのかも…

上の文、michiさんへ、でした

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