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2010年10月10日 (日)

聖子ちゃん

あれは19歳。大学の冬休みのことです。

近所の大手スーパーの子供服売り場でバイトをしていました。
時給745円、交通費無しでした。

クリスマスが近づくにつれ、客が増えます。
商品を畳んで並べ、注文があれば包装し、レジを打つ。レジ締めもわたしの仕事です。
1日7時間、毎日通っていました。
夕方になると足がジンジンしてきます。
店内にはノイローゼになるくらいエンドレスでクリスマスソングが流れています。
それにかぶって近藤真彦の『スニーカーぶる〜す』もかかっています。
隣がレコード店だったのです。

わたしはレコード店のポスターを横目に見ながら
来る日も来る日も子ども服を畳み続けました。

松田聖子のポスターです。「聖少女」と文字が入っています。

 
デビューして間もない時期で、絶大な人気がありました。 
当時、わたしの同年代の男子達は「聖子ちゃん聖子ちゃん」と騒いでおり、
女子達も髪を「聖子ちゃんカット」にしたりして、
今の石川遼くんの人気とは比べものにならない、
もうそれは社会現象と言えるような、大人気でした。

わたしはファンでもアンチでもありませんでしたが、面白くありません。
なにしろ母が夢中なんです。

「聖子ちゃんはかわいいわぁ、何を着ても似合ってる…」と毎日言ってる。

ごめんね、娘はかわいくなくてさ。
あまりテレビを見ないわたしにとって、彼女は「同じ歳のほかの女の子」であり
「周囲が彼女に夢中」なわけで、面白いはずありません。

クリスマスイヴの日、ジングルベルを聴きながら、
孫へ贈るプレゼントを選んでいる老婦人の買い物を手伝い、レジを打ち終わったとき、
くたくたに疲れたわたしは「聖少女」の顔をまじまじと見ました。
透き通るような肌、ファンタジーのようなかわいさです。

うらやましい。純粋にそう思いました。
彼女は歌が好きで、好きな歌を職業にしている。
そのことが、心底うらやましかったのです。

わたしは何が好きで、どんな職業に就くのだろう?
不安で揺れている、ふたしかな19歳の冬でした。

バイトは年末で終了。バイト代で買ったのは剣道の防具です。

二十歳になり、生まれて初めてボーイフレンドができました。
招待されて家に行くと、ぎょっ!

松田聖子がいっぱいいるんです。
LPレコードのジャケットが部屋中に飾られており、例の「聖少女」のポスターもありました。
聖少女に再会です。
カレンダーも松田聖子でした。
松田聖子一色ですよ。

このひと、松田聖子が好きなんだ…。

がっくりでした。母も彼も「聖子ちゃん」ですよ。

わたしは誓いました。
「聖子ちゃんカット」は死んでもするもんかと。
その後、わたしは松田聖子ファンの彼と結婚することになりました。

何年か経って。
わたしは「松田聖子してるね」と友人に言われるようになります。
聖子ちゃんカットではありません。
離婚、そして子連れ再婚をしたからのようです。
言っておきますが、子連れ再婚をしたのはわたしが先です。
松田聖子が「JUNKOしてるね」です。

とはいっても、わたしは松田聖子をだんだん好きになっていました。
若いうちに好きなことを職業にできたことは心底うらやましい。
でもそれを実現するのは才能はもちろん、なみなみならぬ努力の結果だし、
それをずっと貫いているのも立派です。

わたしはかなり遅れて好きなことに出会い、今も食べてゆくのはなかなかですが、
「これでいこう、死ぬまで続けよう」と思えるものがある。
彼女のように、ずっと貫いていけたらと思っています。

さて、2度目の夫におそるおそる尋ねました。
「松田聖子をどう思う?」

夫は言いました。
「松田聖子について考えたことがない」

ハッとしました。
意外な答えですが、これが正解(欲しかった答え)だとわたしは気付きます。
長年の「松田聖子抑圧」がぬぐわれました。
満足したわたしは余裕で尋ねます。
「好きな女優とか、いないの?」

夫は言いました。「久我美子」

く、くがよしこ……。

ちょっとびっくりしましたが、嫌な答えではなかったです。

 

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コメント

JUNKOさんて時々ブログでのろけてますよね(笑)
ほんと今のご主人と出会えてよかったですね~。
「久我美子」・・・懐かしいわぁ 鼻の横にホクロのある上品な美人女優でしたよね。
まだご健在なのかなとちょっと調べてみてびっくり。
高貴なご出身でいらしたんですね。知らなかった~
聖子ちゃんになびかず渋いところを尽いてくるご主人 あっぱれ!!

むうぶさま
のろけてますか! えへへ。気をつけます。
鼻毛の白い夫なのですが、いてくれるだけでありがたく、
米粒ほどの長所をふくらし粉混ぜてでっかくして見せびらかす、みたいなこと、
わたしはやってるんですよ。鼻毛は白いです。

むうぶさまのコメントを読み、わたしも調べてみました。
くがさん、華族の血が…あらまーすごい。知らなかった!
くがちゃまですね!

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