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2011年5月 3日 (火)

おもちゃの食事

初めての出会いは、高校生の時でした。
カップラーメンとの出会いです。

お湯を注いでフタをすると、3分で出来上がる。
「便利」とか「簡単」というのがウリだったのだけど、
わたしにとりそれは「おもちゃ」のような存在でした。

主婦ではないわたしにとって、料理が簡便になることなんて
なんのメリットもありません。
ただ、「できる面白さ」を楽しく感じたのです。

カップラーメンの前にチキンラーメンがあって、
それは丼と皿が必要でした。
鍋もなくできるだけでも画期的で、よく兄が食べていました。
わたしはあの独特の匂いが苦手で、食べたことはありません。

初めて出会ったカップラーメンは『日清のカップヌードル』です。

母は料理と洗濯と裁縫が好きな専業主婦でしたので、
彼女にしても簡便さは必要なことではなく、
やはり「おもちゃ」としてごくたまにカップラーメンを買って来ました。

そして、土曜のお昼のメニューに、たまに取り入れていました。
おもちゃは遊びなので日常ではなく、あくまでもイベントです。

高校が午前中で終わる日は、友人達が「ハンバーガー寄って行かない?」と
誘ってくれて、よく行ったものだけど、イベントの日は別です。
「今日はカップラーメンの日だから」と断りました。

「今日はすきやきの日だから」ならわかるけど、
カップラーメンのために友人の誘いを断るわたしなのでありました。

高校でも、食べました。
お昼休みに抜け出して、近所の酒屋さんでカップラーメンを買い、
「お湯を入れてください」とお願いします。
すると酒屋さんはやかんで湯をわかしてくれて、注いでくれます。
注ぎ終わったらフタをして、そろりそろりと学校へ戻ります。
こぼさないように、やけどしないように、コツがいります。
酒屋との距離が徒歩3分なので、着いたらちょうど出来上がり。
味が好きかというと、そうでもないのですが、
この一連の流れが楽しかったのです。

ある日、湯をこぼさないようそろりそろり歩いていると、
「なるほどそういうことをしているのか」と声をかけられました。

見上げると、学年主任のT先生が目の前に立ちふさがっています。
わたしはナイスアイデアを誉められたような誇らしい気持ちになって
猫背をまっすぐにして胸をはりました。
するとT先生はこう言いました。

「学校抜け出すのって校則違反だよね」

わたしは驚きました。
校則なんて知らない。学生手帳なんてどっか行っちゃったし、
私服の学校なので、男子達は昼休みにパチンコ屋へ行ってます。

しかしT先生は「なるほどうまいこと考えるね」とぶつくさ言いながら
通り過ぎました。見逃してくれたわけです。

T先生は学校外で受験の英語教材の仕事をしているといううわさがありました。
公立校なので、公務員の副業は厳密に言えば規則違反らしい。
生徒もそれを知っていたけど、気にしませんでした。

先生も生徒も親もゆるくて、やわらかくて、いい時代でした。

今はなんていうか、真面目で厳しくて息が詰まる。
オリンピック選手が制服を気崩すくらいで、ぎいぎいぎゃあぎゃあ、
目くじらたてるんだもん。
小さいことに厳しくて、でっかい悪が見えてない。

のちに、わたしは母のように専業主婦になりました。
娘の3度の食事は時間をかけて作りました。
苦にはならなかったのです。それが仕事ですから。
娘が9歳の時に、離婚して、働くおかあさんになりましたが、
食事を手作りする習慣は続いていました。

娘が6年生の時です。
学校から帰った娘は言いました。

「カップラーメン食べてみたい」

なにやら学校で、カップラーメンのことが話題になり、
どれが好きとかあれがおいしいとかみんなで言い合ったのだそうです。
娘は1度も食べたことがなく、友人達にバカにされたのだそうです。

娘は言い返したそうです。「たまごかけごはんは好きだよ」と。
すると「お行儀悪い」と友人に笑われたと言います。

カップラーメンを食べたことがなく、
ご飯に生卵をかける娘が「行儀が悪い」というのです。

おもしろい!
いやもう、なにがおもしろいって、
カップラーメンを1度も食べさせなかったことです。
1度も与えていなかったことに、その時気付いたんです。
思想や主義ではないんです。
たまたま、なんです。
娘は小さい頃から少食でしたので、3度の食事で栄養を採れるよう
それなりに工夫していたので、おやつを与えるのもなかなかで、
ましてや「コバラがすいて」なんてことはなかったので、
カップラーメンを買う動機付けがなかったんです。

世の中はすっかり便利になってしまって、
「おもちゃ」と言えるほどの画期的存在ではなくなっていました。

さっそくカップラーメンを買って、食べさせてやりました。
あの人工的な味に「おいしい!」と驚いていました。
味的に画期的だったようです。

最近わたしはたまに食べます。
小さいサイズのカップラーメンです。
執筆の合間のお昼ご飯に、ちょうどいいのです。

正しい存在理由「簡便さ」という、非常にノーマルな理由で
ストックしてあります。
ですけど、しみついた「おもちゃ感覚」は抜けません。
お湯をわかしながら、ワクワクしているんです。


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