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2011年11月12日 (土)

夜の散歩

創作に疲れて散歩しようと思ったら、夜になっていました。
散歩をしないと気持ちが悪いので、暗いけど、散歩に行きました。
夫も一緒です。

近所を歩き回った挙げ句、最後にケーキ屋さんでアイスを買いました。
アイスを買ったらまっすぐ家に帰らねばなりません。

住宅街の道を歩いていると、夫が「なんだろ、あれ」と言います。
帰る方向とは違う道で、車がぞろぞろ蛇行しています。
よく見ると、道の真ん中に自転車が停まっており、
人が自転車を支えながら、立っています。
それが車の運行の邪魔になっています。

なぜまんなかにいるのでしょう?

「気になる」と夫が言います。
わたしはアイスが気になります。
アイスはわたしので、夫のじゃないから、
夫にとっては謎の方が重要なのです。

近づいて声をかけると、わたしより年上の小柄な女性が
自転車を支えながら、荷物を必死に押さえています。
たくさん買い物して、袋をハンドルにも荷台にもくくりつけ、
それらが荷崩れしたようです。

夫は「手伝いましょう」と言って、自転車を端に寄せ、
荷物を整理し始めました。
女性は「すみません、すみません」と恐縮しています。

荷物は妙なくくり方をしてあったので、まずはそれをはずし、
くくり直すのにかなりの時間がかかりました。

女性はその間、なんども「申し訳ない。お時間とってすまない」と
頭を下げます。かえってこちらが申し訳ない気持ちです。

「4年前に夫が事故死して、それまでなんでも夫にやってもらっていたので」
と女性は言いました。
「朝、いってらっしゃいと送り出して、それきりでした。
それからいいことがひとつもなくて、死んでしまいたいと思ったりして」

「死んじゃだめです」夫とわたしはハモりました。
「そうでしょうか?」女性はわたしを見ました。

何年か前の自分を見ているようでした。
死別ではないけど、夫がいなくなり、絶望した瞬間がありました。
人生がなくなったと感じました。

幸いわたしには娘がいました。
その女性にも娘さんがいるそうです。

女性は言います。
「柩の中で、夫がしゃべったんですって。ぼくがお前を守るから、って。
そんなことってあるんですね。お通夜でお坊さんが教えてくれました」

お通夜での女性の姿が目に浮かびます。
お坊さんがそう声をかけた気持ち、わかります。

女性は言います。
「そう言えば、困っていると、誰かがこうして助けてくれるんです」
わたしは言いました。
「わたしたちもご主人に呼ばれたのかな」

夫は汗だくになって、荷物をしっかりくくりつけました。
「これからいいことありますよ」と言って、夫は女性と握手しました。

なにも手まで握らなくてもいいのに。

別れて、少し歩いて振り返ると、女性はまだこちらを見ていました。
わたしは子どものように大きく手を振りました。
女性は自転車をこぎはじめました。

帰り道、夫は無言でした。
わたしは「アイス溶けたな」と思いながらとぼとぼ歩きました。

生きてればいいことがある…という言葉に実感が持てなかった頃、
わたしはあの女性のように、荷物を落とし、拾い、よろよろ、
歩いていました。

わたしにとっては過去ですが、それが「今」のひともいる。
そのことが苦しく感じられました。

帰宅すると、アイスは無事でした。
彼女の荷物も未来もきっと無事でしょう。

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コメント

読んでいる間、いろんなことを思いました。

最後にジワッと感動しました。

信じたいです、お坊さんの言葉。彼女の未来。

ところでハーゲンダッツ?ガリガリくん?
同じの食べたくなっちゃった!(笑)

ケーキやさんの、って書いてありましたね。すいません(笑)

(シューアイスかなあ? 自家製高級アイスクリームかなあ?)

実生活の内に垣間見た非現実(柩の中の夫の言葉)を
ファンタジーと言ってしまえばそれまでですが、
それを拠り所としている以上、その人にとって全てはリアル。
その自転車の女性も、多くを背負って今を生きる
"途中" の人なのかな、と感じました。

その半面で、アイスが「現実」のメタファーの様でもあり、
なんだか深いなぁ~、と。

良い話ですね〜事故や病気で結婚相手を亡くす事の経験は無いが?
男性の方がもっともっと悲惨なんじゃないのかな?
家庭の事を全部任せっきりの男性が多い今の社会から考えると不器用な女性も居るんですね!
一日も早く社会復帰を果たして欲しいですね!

1868さま
アイスクリーム、近々、写真アップしますね。
全国どこでも手に入ると思いますので、
よかったら、召し上がってください。

お坊さんばんざい。


まもるさま
ほんとうに不思議な夜でした。
彼女ははじめ「柩の中で夫がしゃべった」と
なんどもくり返すので、だいじょうぶかなあと心配したんです。
でも最後に「お坊さんが教えてくれた」とおっしゃったので
なるほどなぁと。
信じるのは彼女の理性じゃないかと思います。
きっとだいじょうぶ。


michiさま
嫌なことのあとには必ずいいことがあるものなので、
うまくいくと思います。
もうすぐです。

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